クラーク記念国際高等学校 スポーツコースサイト > CLARKアスリート > たった3人の体操部が、〝体操強県・埼玉〟の壁を突破し、8月のインターハイ初出場!

たった3人の体操部が、〝体操強県・埼玉〟の壁を突破し、8月のインターハイ初出場!

クラーク国際の最終演技が終わると、豊島リサ監督はスタンドを見上げた。インターハイ埼玉県予選の団体戦初制覇が決まったことを知らせる、両腕で作った「○」のポーズが、目に入った。「『勝ったよ』という言葉も聞こえましたが、速報(の公式記録)が出るまで信じられませんでした」(豊島監督)。

創部3年目。団体戦に出場できる最低人数の3人が顔をそろえてから、今年はわずか2ヶ月あまりの短期間だった。2年生が1人、1年生が2人というフレッシュなクラーク国際生が、2014年から3年連続で団体戦全国優勝校を輩出したこともある超ハイレベルな埼玉県を制し、四国総体(インターハイ)2022(8月7日〜、愛媛県総合運動公園体育館)への出場を決めた。

今年4月、髙橋美羽(みわ)選手(1年)と西村ひなた選手(1年)がクラーク国際のさいたまキャンパスに入学したところから、物語が始まった。中学2年の世界ジュニア選手権(ハンガリー)に日本代表のサブメンバーとして帯同した実力者で、クラーク国際の体操部として活動を続けていた水村理乃選手(2年)に、豊島監督が中学時代から〝戸田市スポーツセンター・体操選手コース〟で指導してきた新入生2人が加わったことで、団体戦に出場できることになった。

しかし団体戦は通常4人でチームを組み、全員が4種目(跳馬、段違い平行棒、平均台、ゆか)すべてを行い、各種目のベスト3の得点を合計して競う。つまり4人いれば、各種目1人は失敗できる。ところがクラーク国際は3人のため、大会出場は可能だが、誰か一人が1種目でも大きな失敗をすれば、その時点で優勝争いから脱落する。

5月3〜5日の関東高等学校体操競技大会埼玉県予選会では、4人で出場して優勝したふじみ野高校の合計146.00点に対して、2位のクラーク国際は143.30点と2.7点の差があった。1ヶ月後の関東高等学校体操競技大会では、4位のふじみ野高校が151.15点、6位のクラーク国際は146.90点と、4.25点差まで開いた。エースの水村選手が段違い平行棒でまさかの落下、床でもミスをするなど、3人ともに点数の上がらない要素があった。しかし「点数は開きましたが、ミスの数が大会ごとに減っていたので、『実力的には少し足りないけれど、ミスを無くせばワンチャンスはあるかな』と思っていました」と豊島監督。関東大会後、肩を落とす3人に「最初(関東大会予選)に全員で10個ぐらいあったミスが、今日は半分ぐらいに減っているから、次(インターハイ予選)はノーミスだね!」と、笑顔で声をかけた。

インターハイ埼玉県予選初優勝後、笑顔を見せるクラーク国際団体戦メンバー(左から髙橋選手、水村選手、西村選手)

関東大会からわずか10日後に行われたインターハイ予選。結成3ヶ月弱の団体戦メンバーは、すでに「なんでも話せる仲の良いチーム」(水村選手)になっていた。たった一人の、たった一度のミスが許されない極限の状態で、「大丈夫!」「がんばろう!」と笑顔で声を掛け合い、すべての種目を乗り切った。3人全員が、監督の〝予言〟通りに4種目すべてノーミス。それぞれが実力通りの演技を見せ、ふじみ野高校の150.25点を2.5点も上回る152.75点を叩き出した。個人順位でも水村選手が1位、西村選手が3位、髙橋選手が4位。右手を空に向かって伸ばし、3人が底抜けに明るい表情で並んだ。

チームのキャプテンは2年生の水村選手だ。小学1年生で体操をはじめ、小3の時には早くも平均台で、側宙やバク転スワン(伸身宙返り)ができるようになった。中2で世界ジュニア選手権のメンバーに抜擢。大会出場はなかったが、1学年上の3人の代表選手と一緒に現地でトレーニングを行い、大会中はサポート役を務めた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になった中3の全国中学では、個人総合優勝の大本命だった。インターハイ直後に開催される全日本ジュニア選手権での優勝、大学生以上の選手も混じる全日本選手権の出場権(全日本ジュニア選手権20位以内)も狙う逸材だ。

水村 緊張するタイプで、試合では毎回震えます。(インターハイ予選の)団体戦はチームに迷惑をかけられないのでかなり震えましたが、ミスのない演技ができてよかった。全国大会では、ミスが出たとしてもチームで声を掛け合って、気持ちを切り替えられる楽しいチーム戦がしたい。

関東大会埼玉県予選で入賞して笑顔の水村選手

西村選手は、両親がともに経験者という体操一家で育った。父の圭一さんは1996年の全日本ジュニア選手権で優勝、現在はクラーク国際のライバル校でもある母校の埼玉栄高校で監督を務める。幼稚園の時に、父の通う体育館に遊びにいくうち、自然と競技をはじめた。中学に入って戸田スポーツセンターに通うようになると、「苦手だった」という段違い平行棒と平均台の得点が一気に伸び、高校でも同様のトレーニングを続けられるクラーク国際を選んだ。中3の全国中学の団体戦では、大会直前に跳馬の着地で左足首のじん帯を伸ばしたために、選手選考会で思うように動けず、本番に出場できなかった。今回は当時の悔しさを晴らす舞台となる。

西村 いつも失敗して、チームのみんなには迷惑をかけてきましたが、今回は得点の取れる種目でちゃんと得点を取って、苦手な種目では失敗せずにできました。インターハイまでには、床のジャンプとターンをもっと強化したい。将来は世界選手権やオリンピックに出たいですね。

床のトレーニングをする西村選手

 

髙橋選手は幼稚園のころ、体を思い切り動かせる〝遊びのように思えた体操の動き〟に触れ、小学校3年生で本格的に競技を始めた。戸田新曽中1年で早くも全国中学の団体戦メンバーに選出。「自分は〝おまけ〟みたいな感じでした」というが、4位入賞に貢献した。クラーク国際を選んだ理由は「朝から練習して、もっとうまくなりたいから」。現在は、学校のある水曜日以外は、午前に1時間半、午後に4時間のトレーニングをこなす。ひざやつま先をピンとまっすぐに伸ばしたまま動ける〝美しさ〟がアピールポイントだ。

髙橋 インターハイでは、平均台を降りる時の回転を1回転から1回転半に増やしたいので、平均台をしっかり蹴って、回りきる練習をしています。本番では自分のできることをしっかりやって、全員で力を合わせて上位を目指します。

インターハイ本番でも3人を率いるのが、日体大時代の1996年にアトランタ五輪の団体戦と個人総合に出場した豊島監督だ。競技引退後、留学先のオーストラリアの体操クラブで、どちらも体操強国ながら、タイプの違う中国人とロシア人から、ハイブリッドで指導術を見につけたことが「現役時代に学んだことよりも、大きな財産になっている」という。留学から自身の育った〝戸田市スポーツセンター・体操選手コース〟に戻ると、母校の埼玉県立戸田翔陽高校の全国優勝メンバーを育て上げたほか、クラーク国際生としてアジア大会に日本代表として出場した中路紫帆選手(引退)、東京五輪代表の平岩優奈(イーグル)らも指導し、実績を残してきた。

豊島監督 メンバーが3人しかいないので、ケガや体調の変化でも(団体戦に)出場できなくなりますので、自分自身の管理には十分に気を付けるように話しています。インターハイは(チームにとって)初のトライですから、結果よりも、良い試合をしてほしいと思います。まずは予選をきちんと通過し、決勝で今までやってきたことを全部出してほしい。

豊島監督

 初めての大舞台に挑む2年生1人、1年生2人の〝クラーク国際チーム〟を、今後も応援してください!